健康長寿・アンチエイジング研究委員会

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「がん検診」の効果について国と医学界の見解は異なっている

日本人の死因で一番多いのは「がん」であり、多くの人は「がん」に対する恐怖心を持っていると思います。 保険会社はテレビCMでがんの恐怖を煽ってがん保険を巨大市場へ発展させ、医療機関はがん検診を推奨することで巨大な「検診市場」を創り上げています。 言ってみれば、我々は「がん」に対して冷静な判断ができない環境下に置かれているとも言えます。

そんな中、少しでも冷静に判断できる材料をお示しすべく、今回から3回にわたって「がん」を題材として本委員会の見解を示していきたいと思います。

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がん検診を巡って国と医学界が対立している

まずは「がん検診」めぐる、最近の動きから紹介していきたいと思います。 2019年1月、がん検診をめぐって大きなニュースが駆け巡りました。 それは、政府(厚生労働省)が、様々ながん検診の種類のうち、「検診を受ける効果が薄い」とされる検診を名指しで公表することにしたのです。

少し長くなりますが、以下、日本経済新聞の記事を引用します。
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2019年1月7日 日本経済新聞 夕刊8面より
がん検診、推奨外を明記、厚労省が指針改定へ

 市区町村が住民向けに行うがん検診について厚生労働省は7日までに、死亡率の低減効果が不明確なものは推奨していないことを国の指針に明記し、注意喚起する方針を決めた。前立腺卵巣がんなど推奨外の検診を87%の自治体が行っている現状を改善するためで、どの検査方法を「推奨しない」とするか検討し、2019年度にも指針を改定する。
 同省は公費で行う自治体のがん検診について、死亡率を下げる効果が確認された胃、子宮頸部(けいぶ)、肺、乳房、大腸の5種類のがんの検診を推奨。検査方法、開始年齢、受診間隔を指針で示している。だが従来は勧めない検診が何かは特定していなかった。
 全国1730自治体の16年度の状況を調べると、推奨されていない前立腺がんのPSA検査を82%が実施していた。
 同検査について推奨の根拠を提供する国立がん研究センターなどの研究班は「効果を判断する証拠が現状では不十分」としている。一方、日本泌尿器科学会は「死亡率は低下する」として強く推奨し、見解が分かれている。
 ほかに、日本では効果が明確になっていない上、米国では「不利益が利益を上回る」とされた卵巣がん検診が5%、甲状腺がん検診は4%の自治体で行われていた。
 検診自体に大きな危険があるわけではないが、放置しても命取りにならないがんを発見、治療することになる過剰診断や精密検査に伴う合併症などの不利益を被ることもある。
 このため厚労省は死亡率を下げるという利益が不利益を上回る検診のみを推奨している。

記事をごく簡単に要約すると、「自治体ががん検診をやみくもにやっているので、国が『そのがん検診は意味がないよ』と言うことにした」というものです。 厚生労働省が「がん検診」の利権にメスを入れたとも言えます。


国が判断を示したことは大きい

これまでもがん検診に対する批判は数多く巻き起こっていましたが、国が正式に特定のがん検診に対して「効果が薄い」と判断を示したのは画期的なことです。 ここで、国が示す「推奨するがん検診」と「推奨しないがん検診」を表にまとめてみます。

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国が「推奨しない」としているがん検診も多い印象を受けます。 ここからは、推奨されない理由について紹介していきます。


進行が遅いがんは検診に向いていない

まずは、上記の表で推奨されていない「前立腺がん」について考えてみましょう。
前立腺がんは高齢者の多く見られ、もっとも進行が遅いがんとして知られています。病院で亡くなった人を解剖すると、20%以上の人で生死には関係ない「前立腺がん」が見つかるとも言われているほどです。 高齢になってからの前立腺がんは放置しておいても、生死に関係することは少なく、大多数ががんが進行する前に別の病気で死んでしまうことが多いです。 ヨーロッパで行われた研究によると、前立腺がんの「検診効果」は死亡確率が0.53%→0.44%に減る程度とされていますので、誤差の範囲と言えそうな効果でしかありません。 したがって、前立腺がんの「がん検診」の必然性はかなり低いと言われているのです。
これらの理由により、国は前立腺がんの検診を推奨していないのです。

また、同じく上の表で推奨しないとされる「甲状腺がん検診」も同様です。 甲状腺がん前立腺がんと並んで、もっとも進行が遅く、生死に関係のないがんが極めて多くなっています。 韓国のデータによれば、甲状腺がん検診によって甲状腺がんの患者数は増えたそうですが、甲状腺がんによる死亡数は全く減らなかったそうです。


がん検診無用論の「盲点」

一部のがん検診に対して「効果はあまりない」という主張は重く見る必要があると思いますが、この主張には意外な盲点がありますので、あわせて紹介させていただきます。
それは「検診を受ける人たちの健康意識」のことです。 がん検診無用論が主張される多くのケースでは、「がん検診を受けなかった人たち」と「がん検診を受けた人たち」のその後のがん死亡率の比較が行われます。 その結果、大差はないというのがその主張です。 しかし、一般的に「がん検診を受けた人たち」の健康意識は高く、「検診を受けなかった人たち」よりもそもそもが健康体であった可能性が考えられるのです。 したがって、もともとの健康状況に違いがある疑いがあることから、単純比較では「がん検診の真価」は測れないという考え方もできます。


がん検診の効果が高いのは「大腸がん」「子宮頚がん」

ここまでは、がん検診を冷めた目で見る論調でしたが、ここからはがん検診を後押しする材料をしっかり提供してまいります(笑)。

がん検診の効果が高いとして国が推奨する「がん検診」はどのようなものでしょうか。 その代表例が便潜血による「大腸がん検診」です。便潜血による検診は苦痛なく簡単に行うことができますし、前立腺がんより進行が早いので「検診の効果」が高いのです。
大腸がん検診の効果を示すデータとしては、2011年に4つの研究成果を統合したメタ分析が有名ですが、その結果では、10〜20年間の期間でみると「大腸がん死亡率を1%→0.86%まで減らせる」ことがわかっています。 「たった0.14%しか減らないの?」と思われる方がいるかもしれませんが、先述の前立腺がん検診の死亡率減が0.9%であることを考えると、比較的優れた効果ということができます(前立腺がんの進行が遅いことを加味すると、効果の差はさらに開くでしょう)。


「子宮頸がん検診」の効果は絶大

大腸がん検診よりもさらに効果が高いのが「子宮頸部のがん検診」です。 インドで行われた研究結果によれば、子宮がん検診の効果は「生涯でたった一回の子宮がん検診の受診により、子宮頸癌による死亡率が35%下がる」と報告されています。
医療体制が日本とインドではかなり異なりますから、鵜呑みにはできないデータではありますが、日本国内の調査結果でも「他のがん検診と比べても子宮頸部のがん検診の効果は高い」とする調査結果が出ていますので、本委員会としては子宮頸部がん検診は文句なしに推奨する検診です。


「がん検診」論争を冷静に捉えよう

冒頭より述べてきた通り、がん検診の評価については、国(厚生労働省)と医学界でも見解が異なっており、一部では「意味のない検診をやりすぎだ」という論調も数多く見受けられます。 特に欧米においては、「健康診断は不要である」「健康診断は受けても受けなくても生存率に変わりはない」という主張が、しっかりとしたエビデンスを元になされていたりしますので、冷静にみると日本国内の「検診信仰」は過剰な面があるのも否めないと思います。

本委員会としては、その点は踏まえつつも、今回は可能な限り両論併記という形をとりました。


まとめに代えて

今回の記事で、最後に紹介したいのは、新日本橋石井クリニック院長の石井光医師が「医者の嘘」で書かれた内容です。科学的なデータとしてはいろいろ言われているがん検診ですが、専門家の意見として参考にしていただければと思います。

「私は、内視鏡の専門医ですから、これまでに人間ドックや健康診断で早期がんを発見したことは枚挙にいとまがありません。
その経験に基けば、人間ドックや健康診断は欧米で何といわれようと、“早期がんを発見する有効な手段である”と断言できます」
この意見に接してみると、自分やその家族の健康を考える上で、「がん検診」に対してどのようなスタンスでいればいいのか悩ましい部分があります。

したがって、本委員会としてあるべき論を語るのは控えさせていただきます。

今回はあくまで両論併記にとどめ、皆さんががん検診について考える材料の提供とさせていただきます。 以上、参考になれば幸いです。